短編小説

上着

家に帰ると、玄関先で知らない男がうんうんと唸りながら、一人で踊るように暴れていた。 私が住む町はしがない田舎町である。このような異常者はいるはずがないと決め込んでいたのもあり、それを見つけた瞬間私はこれまで経験したことのない恐怖を感じとった…

偽札

先ほどから、中年の女性がお札を券売機に入れている。しかし、上手く入っていかない。入れられたお札がよくないのか、券売機からことごとく吐き出されてしまっている。「おかしいわねえ」 中年の女性はそう言い、またお札を券売機へと入れる。私のイライラは…

短編小説 - 「神に導かれし者たち」

私は先ほどから寒空のもと、駅の改札横あたりに立っている。改札はこれから学校や会社へと向かう人々をつぎつぎと吸いこんでいく。いつも通りといった光景。ちなみに念の為に言わせてもらうと、私はなにもただ改札横に立っているわけではない。私がこうして…

短編小説 -「葬式の案内」

会社からの帰り道。私は普段より仕事が早く片付いたこともあり、気分転換も兼ねていつもは通らない道を車で帰途についていた。 四十キロ制限の道路。この道は数カ月ぶりに通る道だ。うねうねと細かいカーブが続く。距離としては少し遠回りにはなるが、普段は…

短編小説 - 「普通」

「みなさんそれぞれ行きたい高校を考えておいてください。ちなみにその志望校調査シートは11日に集めますので提出よろしくおねがいします。それじゃあまた明日」 生徒たちは別れの挨拶を口々に叫び教室の外へと出ていく。マサトとミキオは志望校調査シートを…

短編小説 -「河童」

「このあたりにはカッパが出ると言われておる。我が村に伝わる伝説の一つじゃて」 長老の禿げ上がった肌色の頭が時折天井からの光によって輝きを放つ。「きっとあの娘っ子もカッパに拐われたんだ」 辛うじてサイドには毛が残る頭で村長が力強く言った。「お…

短編小説 -「宗教」

人は無意識のうちに、あるなにかを信じており、その信じているなにかから現実が作られている。なんでもない道端の石を神と崇めている人もいれば、道にある犬の糞を神と崇めている人もいる。前者は少なくとも道を歩いていて石を蹴ることはないだろう。仮に道…