きょうのできごと

ともだちになってください

壁TV設置一派とバービー

 これから台風が来るような強さの風は、私たちはおろか周りのすべてを揺れ動かしている。いつもは動かない木々もそれら自身が意志を持ち、私たちには知るよしもない言語でざわざわとなにかを喋っている。それはいかに人間が彼らにとって悪さをしているかという話しかもしれないし、だれが一番のっぽでたくさん葉があるかという話しかもしれなかった。高く大きな木はより野太い声で、風当たりの強い場所にある木はとてもおしゃべりだった。

 私たちは森の中を歩いていた。曇り空はこれから落ちてくる雨をどんどんと溜め込みながら、いつそれを私たちの下へと落とそうかと企んでいる。遠くの雲の隙間から見えるかすかな太陽の明るさは、彼らが私たちにあえて見せているかすかな希望だ。彼らは、私たちが天気で一喜一憂するのを知っていて、いつもそれを楽しんでいる。彼らは、絶望が希望の隣にあることでいっそう色濃くなることを知っているのだ。

 ちょうど小さな橋の上を歩いていたときだった。私は、彼女が昔、この橋の上から川にいるバービーを見たという話しを思い出した。

「前言ってたけど。昔この川でバービー見たことあるって言ってたよね。バービー、すごく見てみたい。今日は見れないんだろうか」

 私がそう彼女に言うと、彼女がこう答えた。

「バービー。人形のこと?」

 昔、彼女がこの橋を渡っていたとき、バービーが川からばしゃんと顔を出し「やあ、ごきげんいかが」と言って来た。バービーはずぶ濡れだった。いつものオシャレ番長感はこれっぽっちもなく、むしろ狂気をまとっていた。これが日本であるならば、河童の類と思われると同時に、タイマツを持った村人に鍬と鎌で追われているところだろう。

 彼女の答えを聞いた私は、すべてを瞬時に悟った。私が言わんとしていたのは「バービー」ではなく「ビーバー」だったのだ。あの泳げて川の中に巣を作るちょっとでかいリスみたいなやつのことだ。けっして着せ替えができるあの「バービー人形」ではない。

 バービーで思い出したが、かつて「シルバニアファミリー」という動物たちがいた。今、様々な知見を経て「シルバニアファミリー」とだけ聞くと「どこのマフィアだよ」と思う。

f:id:hikaruv:20200105145837j:plain

 その後、家に帰り、明日テレビを壁に設置する前準備をした。こちらではテレビを置くのではなく壁に設置する家が多々ある。私たちも、ついにその一派に今や入らんとしている。