きょうのできごと

ともだちになってください

恥と恐れとコーヒー牛乳

 なんでなん。なんで行くって言ったんやろ。めっちゃ行きたないわ。もう嫌や。

 これは、これから今年初のスピーチの会に行く私の頭ん中。さっきからそういう後ろ向きな言葉がとてつもない勢いで頭ん中の空洞をカンカンガンガン跳ね返っていて、それは速度が収まるどころか時間が迫るに連れて加速するわ増えるわで、それがなんだかとってもうるさいったらありゃしないし、もうどうしたらいいのでしょうカミさまホトケさまとか思っていた。

 たぶん、私は恥をかくのが怖いんだ。

 私が去年の初めから通っているスピーチの会は、世界的に有名なコミュニティだ。日本はもちろんのこと全世界で15000を超える支部があり、35万人もの人が通っている、らしい。ちなみに何を隠そう私の近所にある私が属する支部は、この全世界のクラブの中でトップ50内に入る優れた会だ。何が優れているのかといえば、それは長きに渡って途切れることなく活発に運営されている点にある。発起人はこの会を25年以上続けている。

 このスピーチの会では、参加者一人一人に役割が降られ、参加者はその役割を果たす必要がある。もちろん参加者の数は週によって違うが、参加した場合にまったく話さずにただだれかの話しを聞くということはなく、必ず皆が壇上に立ってなんらかの話しを皆にする必要がある。

 ここで私の頭の中に話しを戻すと、そこでは「きっと私はなにかどうしようもない失敗をして、皆から笑われて恥をかくんだ」というこれまで起こったこともなく、おそらく起こらないであろう後ろ向きな言葉がぐるぐると回り続けていた。

「あいつ一年くらい通ってるのにクソだな」
「なに言ってっかわかんねーよ。言葉も喋れねーのに来んじゃねえよアジア人」

 きっとみんな言葉には出さないけれど心の中でそんなふうに思っているのかもしれない。私の中で黒くてどろどろしたものが滲みでてくる。

 でも同時に、行かなくていい方法などないということも自分の中でわかっていた。頭の中で起こっていることが、私を一歩も進めないことなど私はずっと前から知っていたのだ。行かないということは、行くという約束をした皆にも、そして自分にも嘘をつくことになる。ましてや仮に私がこの今年初の会に参加しなかったとして、来週のこの時間、今ここにある恐れは罪悪感を引き連れてやってきて、私をまた脅し始めるのは明らかだ。

 未知に飛び込む前にある、恐れはいつも幻。

 終わってみれば、そんなふうに。やはり会にいる皆は温かく、私は恥を特にかくこともなかった。帰り道、いつものように少しだけなにかをやり遂げた気持ちになった。

 家に帰る前。好物のコーヒー牛乳を買おうかどうか迷ったけど、やっぱり買わないことにした。