きょうのできごと

ともだちになってください

布団と宇宙の中心

 あと何十分か経てば私の心とは裏腹に、身体はなにかに操られるようにしてここから離れていく。

 火のついたガスコンロの上には、私の心で満たされた鍋が置かれている。すでに、その底から小さな空砲がぷくぷくと浮かび上がってきていて、それは少し前まではとても静かだったのに、嘘みたい。やっぱりいつものようにだんだんと騒がしくなってる。

 これはほとんどの私の朝に起こるできごとで、沸騰していく心がこのまま吹きこぼれないよう、私はしぶしぶに火のついたガスコンロから離れる。

 さっきから眠気眼に何度か見ている薄暗い部屋の中にあるすべての光景は、とっくのとうに見尽くされていて、何千何万と見たからか、それらは私の朝の目の一部と言ってもいいくらいの光景となっていた。

 毎朝、私たちの宇宙の中心は、必ずといっていいほど布団の中にある。それは寒さとともに宇宙の中心が明確になるからだ。

 最近読んだ漫画に地球球体説が出てきた。今ではすっかり当たり前だけれど、その説というのは地球という球体の中心に核というものがあって、それを中心にひっぱられるみたいにして重力があるってことだった。布団も地球もそうなのだから、この宇宙にあるすべて、物質だけに限らず、人間の感情やなんかにも重力があるのかもしれない。

 宇宙の中心に気づくと同時に時折、右肘から先端までの感覚がないことがある。そんなときは左手で右腕を布団の中に引き寄せ、右腕が回復するのを待つことになる。あれはいったいななのだろうと思う。怖い。だれかを戦争に送り出す夢とか見たときに万歳三唱して、両腕が布団の外に出たがために両腕の感覚がなくなったらどうすればいいんだろうと思う。

 日本にいたときは、そんなふうにして、朝、いろいろ思うことはありましたが、こちらではそもそも暖房がついているからか、朝に対してちょっぴり寒いと思うくらいでなんのドラマもありません。コタツもヒーターの灯油も入れなくていいけど、そういう嫌なことも含めて冬のような気がしますので、物足りなさもあります。